AGA(男性型脱毛症)は頭頂部と前頭部、いわゆるつむじと前髪の生え際から抜け毛が増えて、徐々に頭皮が透けるようになる進行性の薄毛の疾患で、男性型脱毛症(AGA)治療には日本皮膚科学会の「男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン作成委員会」により作成された「男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン」と呼ばれるガイドラインが存在します。
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これはAGA治療における標準的な治療やその推奨度が記載されておりますが、今回はこの男性型脱毛症治療の指針である男性型および女性型脱毛症診療ガイドラインについて解説します。
男性型脱毛症の診断と病態
男性型脱毛症の診断方法と具対的な病態についてガイドライン中の記載をまとめました。
診断方法
男性型脱毛症の診断は医師による問診や視診が一般的とされています。
問診とは診断の参考にするために病歴や病状に関して患者自身に質問することであり、男性型脱毛症においては主に家族の罹患歴や脱毛の経過などを問診します。
また、視診により額の生え際の後退や前頭部や頭頂部の髪の毛の状態を確認し、細く短い髪の毛の有無や全体的な毛量の減少を把握します。
男性型脱毛症の進行具合には個人差があり、進行パターンによっていくつかの型に分類されています。欧米ではアメリカのハミルトン医師が提唱し、後にノーウッド医師が改定した「ハミルトン・ノーウッド分類」という分類法が基準となっています。
日本人には欧米人には珍しい頭頂部の薄毛のみが進行する「Ⅱvertex」といわれるパターンがみられるため、このパターンを追加した「高島分類」といわれる分類法も広く用いられています。
高島分類は髪の毛の脱毛パターンを「頭頂部」「生え際」「前頭部」として、薄毛の進行度によってI型〜Ⅶ型に区分しています。
一般的に軽症であるI型〜Ⅱ型は男性型脱毛症の症状が目立たない状態であり、発症初期には自覚症状がないことも考えられます。Ⅲ型〜V型は症状が中等症程度であり、頭頂部と前頭部双方からの脱毛進行が認められる場合もあります。VI型以降は脱毛症状がかなり進行し、側頭部と後頭部以外に健康な髪の毛はほぼ残っていない状態が考えられます。
男性型脱毛症の診断は比較的容易といわれていますが、ゆっくりと髪の毛が抜けていく円形脱毛症の亜型※1に代表されるような類似脱毛症も存在しているため、その他の脱毛症の除外と早期の診断が提唱されています。
※1「亜型」
派生した形。サブタイプ。
病態
毛髪はヘアサイクル(毛周期)※2と呼ばれる一定の生え変わりサイクルを繰り返すことで健康な状態を保っています。ヘアサイクルは髪の毛が育つ「成長期」、髪の毛を産生する毛包が退縮していく「退行期」、毛包の活動が停止する「休止期」で構成されています。
ガイドラインではヘアサイクルに変調を来たし休止期に止まる毛包が増加することを病態基盤とし、前頭部や頭頂部の髪の毛が軟毛化※3によって細く短くなり、最終的に髪の毛が皮表に現れなくなる現象を男性型脱毛症と定義しています。
※2「ヘアサイクル(毛周期)」
髪の毛が産生・成長・退行する一定の周期。髪の毛は常にヘアサイクルを繰り返し一定の量を保っている。
※3「軟毛」
細く柔らかい髪の毛。男性型脱毛症において軟毛化は症状進行の目安となる。
男性型脱毛症診療ガイドラインの概念
正式には「男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン」と呼称するこの資料は、公益社団法人である「日本皮膚科学会」によって定められています。
この組織は皮膚科学に関する研究・教育と医療について進歩・普及に貢献し、学術文化に寄与することを目的として設立されました。
日本皮膚科学会はさまざまな皮膚疾患のガイドラインを策定しており、男性型および女性型脱毛症診療ガイドラインもその中の1つです。
学会が公開しているガイドラインのすべては最も標準的とされている診療の提示が目的であり、すべてのガイドラインは主として皮膚科医による診療を想定しています。
男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン運用の目的
ガイドライン作成前の日本は医療の進歩に伴って男性型脱毛症の病態解明も進み、有効な治療方法が開発され皮膚科診療においても積極的に使用されるようになっていました。
しかし、そうした治療方法の進歩と並行して科学的根拠に基づかない民間療法も散見し、効果が期待できない治療法を継続する患者も少なくありませんでした。
男性型脱毛症診療ガイドラインはそのような状況下において科学的根拠に基づいた情報を厳選し、医師、患者双方にとって指針となり得る標準的治療法を提示することで、男性型脱毛症の診療水準向上を目的として作成されました。
ガイドラインの活用法
ガイドライン中には、男性型および女性型の脱毛症に対して行われている主要な14の治療方法の詳細が臨床試験や比較試験の結果と共に紹介されています。
ガイドラインではそれぞれの治療方法に関して試験の結果や文献、論文などを基準にエビデンスを収集し、独自の推奨度を設定することで個々の治療方法を評価しています。
ガイドラインが決定した推奨度は国内で最も信憑性の高い基準といっても過言ではなく、男性型脱毛症治療の治療方法を検討する場合の第1指針とすることができるでしょう。
推奨度の基準
ガイドラインにおける治療方法の推奨度基準はエビデンスのレベルによって5つの段階に分け評価されています。
【エビデンスのレベル分類 】
I システマティック・レビュー/メタアナリシス
(質の高い複数の臨床研究を、複数の専門家や研究者が一定の基準と一定の方法に基づいてとりまとめた総説)
II 1 つ以上のランダム化比較試験
(新薬の臨床試験などを行う際に公平性を担保するため、新薬使用のグループと通常薬使用のグループを無作為に分け、臨床の効果・影響を測定する試験)
III 非ランダム化比較試験
(新薬などの臨床の際に、新薬を使用したグループと通常薬を使用したグループを意図的に分けて行う試験)
IV 分析疫学的研究(コホート研究や症例対照研究)
(要因と疾病の関連を評価する研究方法。疾病に罹患したグループと罹患していないグループそれぞれの曝露要因を観察調査し比較する)
V 記述研究(症例報告や症例集積研究)
(特定の治療法を複数の被験者を用いて経過や結果を観察し、データとしてまとめた研究)
VI 専門委員会や専門家個人の意見
【推奨度の分類 】
A.行うよう強く勧める
(少なくとも1つの有効性を示すレベルIもしくは良質のレベルIIのエビデンスがあること)
B.行うよう勧める
(少なくとも1つ以上の有効性を示す質の劣るレベ ルIIか良質のレベルIII、あるいは非常に良質のIVのエビデンスがあること)
C1.行ってもよい
(質の劣る III~IV、良質な複数のV、あるいは委員会が認めるVIのエビデンスがある)
C2.行わないほうがよい
(有効のエビデンスがない、あるいは無効であるエビデンスがある)
D.行うべきではない
(無効あるいは有害であることを示す良質のエビデンスがある)
ただし、特定の分野では国際的にもエビデンスが不足している状況や、歴史的背景、診療ガイドラインの実用性を考慮して推奨度を決定した項目があるため、上述の推奨度が必ずしも実際の判断基準に一致しない場合もあるとされています。
ガイドラインをもとにした治療方針
現行の男性型脱毛症における治療方法は、薬剤を用いた薬物治療と物理的な施術を行う外科治療に大別することができ、ガイドライン中で評価されている14種の治療方法も一部を除いてどちらかに分類することが可能です。
ではそれぞれの治療方法について確認してみましょう。
出典:日本皮膚科学会「男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン2017年版」
投薬治療
男性型脱毛症に効果的な治療薬を用いた治療方法です。経口摂取により直接体内から脱毛症の改善を試みる内服薬と、体外から頭皮や髪の毛にアプローチする外用薬に分類することができます。
ガイドライン中には10種の薬物治療が検証されています。そのうち推奨度が最も高い「A」評価の治療方法は内服薬である「フィナステリド」「デュタステリド」および外用薬の「ミノキシジル」を用いた治療方法です。
上述の治療薬以外にも様々な薬剤が評価対象として検証されていますが、薬剤を使用した治療方法では上述の3種が最も有用性を認められているためその他の治療薬を使用する機会は少ないといえるでしょう。
なお、一方でミノキシジル内服薬に関しては推奨度が最も低い「D」判定となっています。
なぜミノキシジル内服薬が「D」判定かというと、内服薬としてのミノキシジルは臨床試験が実施されていない点や、降圧剤として開発され海外では認可も受けているが、AGA治療薬としては認可されていないという理由であることが分かります。これを紐解くと、その効果に言及してのD判定というよりも、その安全性や認可の問題の事由が推奨度の決定理由になっていることが分かります。
また、だからこそAGA治療においては定期的な医師の診察や副作用の確認は非常に需要な役割を果たします。
なお、国内のAGA治療を専門としているAGAクリニックの多くは「ミノキシジル内服薬」を処方している事実も理解しておくことが重要です。
外科的治療
外科治療とは手術による治療方法を指し、男性型脱毛症においては「植毛」や「注入治療」が外科治療に該当します。
ガイドラインでは「植毛術」「LEDおよび低出力レーザー照射」「成長因子導入および細胞移植療法」が検証されており、植毛術(自毛植毛のみ)とLEDおよび低出力レーザー照射が推奨度「B」とされています。
男性型脱毛症の治療において外科治療は薬物治療の補助的治療として用いられることが多い治療方法です。
ガイドラインでは推奨度「B」である植毛術に対して、フィナステリドおよびデュタステリド内服やミノキシジル外用による効果が十分でない症例に対して、他に手段がない状況において、十分な経験と技術を有する医師が治療する場合に限り行うよう勧めるとしており、男性型脱毛症の優先治療が薬物治療であることを示唆しています。
医薬部外品成分の推奨度
ガイドライン中で検証されている薬剤には、「アデノシン」や「t-フラバノン」のように医薬部外品の育毛剤に配合されている成分も存在します。
医薬部外品とは医薬品と化粧品の中間的な分類で、人体に対する作用が緩やかであり何らかの改善効果や予防効果をもたらすものです。
しかし医薬品であるフィナステリドやミノキシジルに比べ男性型脱毛症に対する効果は低いと考えられています。
育毛剤の目的は頭皮や髪の毛の健康維持や抜け毛の予防であり、男性型脱毛症の進行抑制や発毛の促進効果は期待できません。
また頭皮に良いとされる各種ビタミン、栄養素を配合したサプリメントなどもその目的は健康的な頭皮や髪の毛の維持であり、男性型脱毛症に対する治療効果が証明されているわけではありません。
上述の通り、育毛剤の主な目的は健康な頭皮や髪の毛の維持と抜け毛の予防です。男性型脱毛症対策として医薬品同等の効果は期待できないでしょう。
AGAの進行度に合わせた治療とは
男性型脱毛症は進行度によって効果的な治療方法が異なります。まず、進行度が軽~中度である場合の第1選択は薬物治療が一般的とされています。
医師により男性型脱毛症発症の診断を受けた場合は医薬品であるフィナステリドやデュタステリド、ミノキシジル外用薬が処方されることが一般的です。
治療薬の効果には個人差がありますが、進行度が軽症から中等症程度であれば内服薬の服用や、外用薬との併用によって症状が改善するケースが多いとされています。
なお、症状の進行が著しい場合は薬物治療だけでなく、植毛術といった外科治療やかつらの着用を推奨する場合もあります。
脱毛は生理的な現象ですが、外見上の印象を大きく左右するため「QOL(Quality of life)」※4に与える影響は大きいと考えられています。
中でも男性型脱毛症は進行性の疾患であるため何らかの対策を講じなければ改善は見込めません。
男性型および女性型脱毛症診療ガイドラインは男性型脱毛症対策において最も信頼度の高い資料の1つです。具体的な改善策を検討している方にとって有力な指針となるでしょう。
※4「 QOL(Quality of life)」
人生の質や生活の質。人間が生きる上での満足度を表す指標。
銀座総合美容クリニックでは「常に患者さん目線でのクリニック運営」「患者満足度のより高いAGAクリニックを目指す」をクリニックの運営理念に掲げ薄毛に悩む患者様と日々真摯に向き合っており、無料カウンセリングを対面・オンラインともに常時承っております。