「ワカメ」や「昆布」を食べれば薄毛が改善できる、「海藻類」を食べると黒々とした髪が生えてAGAが改善できる、といったウワサは一度は耳にした方も多いはずです。実はこのうわさの歴史はかなり古く、江戸時代の女性が洗う長い髪が「ワカメ」や「昆布」に似ていることから、当時は女性の美髪に良いとされて女性が好んで食べ始めたのが事の始まりとされていました。それが時代を経て「ワカメ」や「昆布」を食べると髪が生えてくる、薄毛改善に効果があるといった噂に変化をしていったというのが通説です。
では、この古くから伝わるワカメや昆布の髪に与える影響や、薄毛やAGAの改善効果などを医学的な視点からその真偽を解説をしていきたいと思います。
目次
ワカメを食べると髪に良い成分をバランスよく摂取できる
まず、ワカメを食べる効果を解説する前に、毛髪にとって良いとされている成分が、ワカメにはどの程度含まれているのか、文部科学省の食品成分データベースを参考にして見ていきましょう。ちなみに、乾燥ワカメは1gでおよそお味噌汁1杯分に含まれている程度の分量です。
成分名 | 値 |
タンパク質 | 1.7g |
亜鉛 | 0.5mg |
ビタミンB2 | 0.15mg |
ビタミンB6 | 0.02mg |
ワカメに含まれる毛髪に良いとされる成分を見る限り、毛髪を発毛させるような成分はなく、亜鉛やビタミンB群、タンパク質がバランスよく含まれているのがわかります。ワカメを食べることは、毛髪によい成分をバランスよく摂取することになりますので、毛髪にとって良いことであることは事実と言えるでしょう。
ワカメに含まれる成分が髪にもたらす効果
ワカメの成分の「タンパク質」「亜鉛」「ビタミンB2」「ビタミンB6」から具体的に髪にもたらす効果を解説していきたいと思います。
タンパク質:毛髪の成分であるケラチンになる
タンパク質は人間の筋肉や血液の材料として使われ、毛髪の成分であるケラチンもタンパク質でできています。身体づくりに使われている栄養素ですので、タンパク質が不足してしまうと筋肉や毛髪、肌などのトラブルが生じやすくなりますが、目に言えてわかりやすい症状ではありません。
身体はタンパク質が不足すると、他のものでそれを補おうとします。ダイエットや減量などでエネルギー不足になると、身体は筋肉を分解してエネルギーを発生させて生きようとし、筋肉が減少するのです。毛髪など、生命に直接かかわるわけではない組織は、栄養が不足していても優先順位が低いため後回しにされてしまいます。そのためタンパク質が不足すると、枝毛や切れ毛などの影響がでる可能性はあるでしょう。
亜鉛:ケラチンの生成を補助する
亜鉛は、16種類ある必須ミネラルに含まれ、体内では生成できないので食事やサプリメントなどから摂取する必要があります。亜鉛の働きはタンパク質の合成からホルモンの合成や分泌の調整、免疫反応の調整などさまざまです。毛髪の元となるケラチンを生成する助けをしてくれるので、亜鉛が不足すると毛髪の生成がうまくできずに毛髪が成長できません。
ビタミンB2:毛髪の発育促進に役立つ
ビタミンB群とはビタミンB1・B2・B6・B12やナイアシン、パントテン酸、葉酸、ビオチンの8種類のことです。ビタミンB群にはエネルギーの代謝の補助をする役割があり、ビタミンB2とビタミンB6で代謝する物質が異なります。
ビタミンB2は、タンパク質や脂質の代謝の補助をしてくれます。「発育のビタミン」ともいわれ、脂質の代謝を助け、皮膚や髪・爪などの細胞の再生に役立つ、発育促進に欠かせない栄養素です。ビタミンB2が不足してしまうと、脂質の代謝がうまく働かず、エネルギーとして利用しにくい状態になります。そうなってしまうと、皮脂の分泌量が増えて、肌のトラブルを引き起こす可能性が出てくるでしょう。皮脂の分泌量が増加すると、頭皮の環境も悪くなってしまいます。
ビタミンB6:亜鉛を補助して健康な毛髪を作る
ビタミンB6はタンパク質の代謝に関係しています。ケラチンを生成する亜鉛を補助する役割もあり、健康な毛髪を作るサポート役です。ビタミンB6が不足してしまうと、皮膚炎や貧血、リンパ球減少症になったり、成人の場合はうつ状態や神経系に異常が起こったりすることもあります。
このように、毛髪を生成するサポート役であったり、発育を促したりする栄養素が含まれていますが、この中に発毛を促すような成分は含まれていません。
ワカメで薄毛やAGAの改善は難しい
ワカメに含まれている成分は、毛髪を成長させるために必要なビタミンB2やケラチンを生成するタンパク質、それをサポートする亜鉛などが含まれており、毛髪に良い食べ物であることは事実です。しかしワカメを食べることで薄毛を改善できるかと言われると難しいでしょう。薄毛の原因はさまざまですが、*日本の成人男性3人に1人がAGA(男性型脱毛症)と言われています。(*板見 智:日本醫事新報 2004; No.4209: 27-29より)
AGA(男性型脱毛症)の原因は、DHT(ジヒドロテストステロン)が脱毛のシグナルを発することでヘアサイクルが乱れるからです。男性ホルモンが体内の還元酵素と結合することで、より強力な男性ホルモンのDHT(ジヒドロテストステロン)へと変換されます。DHT(ジヒドロテストステロン)が受容体(アンドロゲンレセプター)と結びつき、毛髪の成長をコントロールしている毛乳頭細胞に脱毛するように指示を送り、毛髪がまだ成長期の途中なのに脱毛してしまうのです。
AGA(男性型脱毛症)のメカニズムについて詳しくはこちらをご覧ください。
関連: AGAとは?効果的なAGA対策と治療法まで解説
ワカメの成分が男性ホルモンに関与、もしくはAGAのメカニズムに何かしらの作用があるわけではないので、薄毛やAGA(男性型脱毛症)を改善することは難しいと結論付けることが出来ます。
ワカメや昆布など海藻の食べ過ぎは要注意
薄毛改善の効果がないと言っても、髪の成長には良いということでワカメや昆布など海藻を沢山食べればよいかというと、そうではありません。豊富な栄養素を含んでいるワカメの中には、ヨウ素という栄養も含まれています。日本人は海藻を食べる独特な文化を持っており、摂取しているヨウ素の約8割は海藻由来と言われているほどです。
亜鉛と同じ必須ミネラルの1つで、甲状腺に存在し、甲状腺ホルモンの材料となる重要な働きをしています。ワカメを含め、海苔やひじきなどの海藻類、たらこやしめさばなどといった魚介類にも含まれているため、海産物を多く摂取している日本人はヨウ素不足になることがほとんどありません。
しかしヨウ素を多くとりすぎることで、甲状腺がんの発生のリスクが上昇した報告がされており、あくまでも一般的な食事をベースに少し多めにワカメや昆布などの海藻類を摂取する分には構いませんが、過剰摂取は体に害を及ぼすリスクが伴います。
食品名 | 100gあたりの含有量 |
刻み昆布 | 230.000μg |
乾燥ワカメ | 1.900μg |
焼きのり | 2.100μg |
厚生労働省発表の「日本人の食事摂取基準」では、ヨウ素は成人(男女共通)の推奨量として1日 130 µgを示しています。一番身近な焼きのりで試算すると1枚が約3~4gなので、1日15~20枚程度は許容範囲と考えると、意識的にワカメや昆布の摂取量を多少増やす程度の食生活であれば、過剰摂取に注意を払う必要はないでしょう。
ワカメや昆布に期待できる薄毛やAGAへの影響
海藻類、とりわけワカメには髪の毛にまつわる良い話を聞きますが、薄毛に関する増毛やAGAの改善については成分に基づく根拠がなく、髪を生やす、薄毛を予防するといった効果は見込めません。
しかし、毛髪のもととなるケラチンを生成するタンパク質や毛髪の生成をサポートするビタミンB2、ビタミンB6、亜鉛など毛髪に良い栄養素がバランスよく含まれているので、毛髪にとって良い食べ物であることは事実です。そう考えると、冒頭でもご紹介した事の始まりでもある、江戸時代の女性が洗う長い髪が「ワカメ」や「昆布」に似ていることから、当時は女性の「美髪」に良いとされて女性が好んで食べ始めたという事自体は、あながち誤りでは無かったことが分かります。
しかし過剰に摂取すると、身体に悪影響を及ぼす可能性もでてしまいますので、バランスの良い食事を心がけるようにしてください。
銀座総合美容クリニックでは「常に患者さん目線でのクリニック運営」「患者満足度のより高いAGAクリニックを目指す」をクリニックの運営理念に掲げ薄毛に悩む患者様と日々真摯に向き合っており、無料カウンセリングを対面・オンラインともに常時承っております。
- 食品成分データベース(ワカメの可食部10g当たりの数値) – 文部科学省
- 海藻摂取と甲状腺がん発生との関連について – 国立がん研究センター社会と健康研究センター予防研究グループ
- 日本食品標準成分表2020年版(八訂) – 文部科学省
- 日本人の食事摂取基準(2020 年版) 336頁 – 厚生労働省