円形脱毛症は、外傷や手術、ストレス等を契機に発症する脱毛症の一種です。円形脱毛症は一種のアレルギー反応によって自分自身の毛包を排除してしまう「自己免疫疾患」と考えられています。
薄毛のなかでも圧倒的に多いのが男性ホルモンが原因とされているAGA(男性型脱毛症)です。AGA(男性型脱毛症)のメカニズムについて詳しくはこちらをご覧ください。
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またそれと同時に円形脱毛症も多いといわれており、AGAとは異なり男女差や年齢に左右されずに発症するため、医療機関の皮膚科に最も来院する頻度が高いといわれる疾患です。今回は円形脱毛症について、症状や原因、治療方法、またAGAとの違いについて解説します。
円形脱毛症とは
円形脱毛症とは、10円から500円硬貨程度の面積の毛髪が抜け落ちる脱毛症です。AGA(男性型脱毛症)は頭頂部や生え際が徐々に時間を掛けて薄毛になっていくのに対し、円形脱毛症は発症すると短期間で急激に脱毛し、境界が明瞭で瘢痕(はんこん)もないのが特徴です。重症になると頭部だけではなく身体全体に症状が及ぶことがあります。
円形脱毛症の脱毛斑は一定ではなく、「単発型」「多発型」「全頭型」「蛇行型」「汎発型」の5つに分類されます。
● 単発型:脱毛斑が一つ、形が丸い
● 多発型:脱毛斑が二つ以上、形が丸い
● 全頭型:頭部全体に症状が見らえる
● 蛇行型:脱毛斑が円状よりも範囲が広く蛇行している
● 汎発型:症状が全身に及ぶ
引用:脱毛症 Q6 – 皮膚科Q&A(公益社団法人日本皮膚科学会)
円形脱毛症は甲状腺疾患や尋常性白斑、関節リウマチ、重症筋無力症などのほかの自己免疫疾患と併発すると考えられているため、注意深く問診をし、対処する必要があります。なお、問診時には脱毛症状の経過や治療歴・家族歴・既往歴・合併症などが聞かれるので、医師に伝えるようにすると良いでしょう。
円形脱毛症の原因について
現在では、免疫機能が変調をきたした際に、毛包へ影響を与えることで起きる自己免疫疾患と考えられています。通常であれば、ヒトの体内に入ってきた異物(特定のがん細胞や寄生虫など)を認識して排除するための免疫機能が、自分の臓器や組織を異物と誤認してしまい、さまざまな病気をもたらすのが自己免疫疾患です。免疫細胞であるT細胞やB細胞を含むリンパ球が、過剰に活性化することで発症するといわれています。
しかし、自己免疫疾患が発症する原因はいまだ解明されておらず、免疫反応を引き起こす物質が、他の人が持っていても発症しないケースもあるようです。遺伝が関与していることもあったり、わずかではありますが、自己免疫疾患を発症する可能性を高める遺伝子も確認されていたりします。
円形脱毛症の重症度具合について
日本皮膚科学会円形脱毛症診療ガイドライン2017年版において、円形脱毛症の重症度を表す指標があります。頭部の場合、脱毛巣の面積が頭部全体でどの程度占めているかでS0~S5まで6段階で重症度を位置づけます。
● S0:脱毛がみられない
● S1:脱毛巣が頭部全体の25%未満
● S2:脱毛巣が頭部全体の25~49%
● S3:脱毛巣が頭部全体の50~74%
● S4:脱毛巣が頭部全体の75~99%
● S5:100%(全頭)脱毛
また、頭部の脱毛と頭部以外にも脱毛の程度を分けており、頭部をS、頭部以外をBとし、0から数字が大きくなるほど重症の円形脱毛症です。
● B0:頭部以外の脱毛なし
● B1:頭部以外に部分的な脱毛がみられる
● B2:全身全ての脱毛
頭部でも頭部以外でも数字が大きくなるほど重症化していき、全身に症状が出てしまうB2にまでなると、眉毛や腋毛などの体毛にまで影響してきます。
円形脱毛症の発症率について
アメリカのミネソタ州オルムステッド郡での年齢と性別を合わせた調査によると、発症頻度は500人に1人、平均年齢は33歳、男女差はないとされています。また、中国で行われた疫学調査においては、円形脱毛症を発症した患者との関係が近いほど発症率が高く、84%が家族内発症でした。親もしくは実子の1親等内ですと発症率は10倍にもなり、一卵性双生児での一致率は55%と高率です。
円形脱毛症と併発する疾患について
円形脱毛症は自己免疫疾患により発症すると考えられているため、特に橋本病(慢性甲状腺炎)と併発することが多いです。橋本病を治療した際に、円形脱毛症の症状も改善することがあります。白斑や全身性エリテマトーデス(SLE)、関節リウマチ、I型糖尿病、あるいは重症筋無力症なども、円形脱毛症を併発する疾患です。
疾患名 | 主に損傷を受ける組織 | 症状 |
慢性甲状腺炎(橋本病)を代表した甲状腺疾患 | 甲状腺 | 甲状腺ホルモンが減少したり過剰になったりしてしまう。 |
白斑 | メラノサイト(色素細胞) | 皮膚の基底層に分布するメラノサイトが何らかの原因 |
全身性エリテマトーデス(SLE) | 関節、腎臓、皮膚、肺、心臓、脳、血液の細胞 | 疲労感、脱力感、ふらつきなどの貧血の症状、および、疲労感、息切れ、かゆみ、胸痛などの腎臓、肺、心疾患による症状が起こることがある。 |
関節リウマチ | 関節、肺、神経、皮膚、心臓などのその他の組織 | 発熱、疲労感、関節痛、関節のこわばり、関節の変形、息切れ、感覚消失、脱力感、発疹、胸痛、関節や腱の腫れなどがみられる |
I型糖尿病 | 膵臓のベータ細胞(インスリンを産生している) | 強いのどの渇き、過剰な尿量や食欲といった症状がみられる。 |
重症筋無力症 | 神経と筋肉の接合部(神経筋接合部) | 筋肉、特に目の筋肉が弱り、疲れやすくなるが、その程度は患者により異なる。 |
上記はどの疾患も自己免疫疾患と考えられ、円形脱毛症を併発することが知られています。特に甲状腺疾患では8%、白斑では4%も合併する確率が上がってしまう報告があります。
円形脱毛症とアトピー素因について
アトピー素因とは、アレルギー性の鼻炎、皮膚炎、気管支喘息のいずれかを持つ人のことです。日本皮膚科学会円形脱毛症診療ガイドライン2017年版では、ほかにも円形脱毛症にかかると60%の方がアトピー性疾患(気管支喘息、アトピー性皮膚炎、軽度のアレルギー性鼻炎)が併発し、23%の方がアトピー性皮膚炎にかかっていたことが分かっています。
国内でも200名の円形脱毛症の方を調査した際に、本人または家族にアトピー素因があるのが108例(54%)でした。そのうち円形脱毛症の患者本人にアトピー素因があるものが82例(41%)であることから、自分がアトピー素因をもっていなくとも、家族にアトピー素因を持つ人がいた場合、円形脱毛症と合併する可能性があるので注意が必要です。
現状ではこれらの関連性が高いと疑われていますが、発症にどうかかわっているのかのメカニズムは未だ判明されていません。
円形脱毛症はストレスが原因であるかの真偽
「ストレスで10円ハゲができた。」というフレーズは、一度は聞いたことがある方も多いかと思います。円形脱毛症を発症した方31名に、精神科的面接調査をおこなったところ、22名(74%)の方が精神疾患の診断を受けていることがわかりました。
しかし抑うつ状態と円形脱毛症には関連性が認められなかったため、ストレスは間接的な要因に過ぎないというのが一般的です。
円形脱毛症の治療方法
自己免疫疾患に効果的な治療方法の中でも、推奨されている治療方法とそうでないものがあります。日本皮膚科学会円形脱毛症診療ガイドライン2017年版をもとに、それぞれまとめて紹介します。
治療方法 | 推奨度 | 推奨文 |
ステロイド局所注射療法 | B | 年齢を問わず、S2以上の多発型、全頭型や汎発型の症例に第一選択肢として行うよう勧める |
局所免疫療法 | B | 年齢を問わず、S2以上の多発型、全頭型や汎発型の症例に第一選択肢として行うよう勧める |
ステロイド外用療法 | B | 単発型から融合傾向のない多発型の円形脱毛症に対しては、1日1~2回のstrong、verystrong、strongestクラスのステロイド外用療法を行うよう勧める |
かつら | B | 多発型・全頭型・汎発型AAに対して使用するよう勧める |
ステロイド内服療法 | C1 | ステロイドの内服療法は、発症後6カ月以内で、急速に進行しているS2以上の成人症例に使用期間を限定して行ってもよい休薬後の再発率が高いことより、ステロイドの外用・注射などの他標準的治療に抵抗する症例に検討する |
静脈注射によるステロイドパルス療法 | C1 | 静注ステロイドパルス療法は、発症後6カ月以内で、急速に進行しているS2以上の成人症例に行ってもよい 再発例が多いことと、ステロイドによる副作用の十分な患者説明が必要である |
抗ヒスタミン薬の内服療法 | C1 | 単発型および多発型の症例に併用療法の一つとして行ってもよい |
円形脱毛症は、国内においてメタアナリシスやランダム化比較試験などを行っていないため、推奨度Aの治療法は確立していません。しかし行うように勧めるとされる推奨度Bにはステロイド局所注射療法や局所免疫療法、ステロイド外用療法、かつらなどの治療法が分類されています。
日本で主に円形脱毛症の治療として行われる治療法の詳細を紹介します。
ステロイド局所注射療法
ステロイド注射に配合される薬剤の一つにトリアムシノロンアセトニド軟膏があります。軟膏タイプと局射タイプがあり、どちらも円形脱毛症の単発型、多発型のいずれにも有効です。局注部位に萎縮や疼痛、血管拡張が報告されており、脱毛が広範囲に及ぶ場合にはかなり多くの局注回数と注射総量を必要とするため、他の治療法も検討すべきです。
局所免疫療法
かぶれを起こす試薬(SADBEやDPCPなど)を脱毛部に塗り、別のリンパ球を呼び寄せ、毛包に影響を与えているリンパ球の進入を防ぐ治療法を指します。かぶれを引き起こすため、アトピー性皮膚炎の合併症の場合、状況が悪化する場合がありますので、注意が必要です。
ステロイド外用療法
ステロイドには炎症を促す物質の産生を抑制の他に、免疫抑制作用もあり、ランダム化比較試験でも信頼度の高い報告がされていますしかし副作用としては、ざ瘡や毛包炎に注意が必要です。長期的に使用することで、萎縮血管拡張や陥凹をきたすことがあるので、漫然と長期に投与すべきではありません。
かつら
かつらを装着することで、円形脱毛症が治療できるわけではありません。しかし、紫外線や外傷からの防御の点で推奨されています。
円形脱毛症とAGAとの違いや症状の比較
一言に脱毛症といっても、さまざまな種類が確認されています。現在、薄毛の大半を占める原因がAGA(男性型脱毛症)または円形脱毛症と言えるでしょう。
まずAGA(男性型脱毛症)は発症しても気が付かず、長い年月をかけて頭頂部と生え際を中心に徐々に毛髪の密度が低くなってしまい、びまん的に毛髪が脱毛します。
それに対して円形脱毛症は、脱毛斑の境界がはっきりとしており、一定個所の毛髪だけが1日~2日で急激脱毛します。その為、「頭髪が抜けて頭皮が露出するスピード」「頭髪が抜ける部位」に明確な円形脱毛症とAGAの症状の違いがある為、医師の診察を受けることで、何れかの場合は病名が明確になるケースがほとんどです。
また、AGA治療は保険外診療、いわゆる自由診療ですが、円形脱毛症の治療は健康保険が適用される保険診療に該当します。その為、円形脱毛症の診断や治療を受ける際には、自由診療を中心に行うAGAクリニックよりも保険診療を中心に行う総合病院の皮膚科を受診することで、治療費用を抑えることも可能です。
銀座総合美容クリニックでは「常に患者さん目線でのクリニック運営」「患者満足度のより高いAGAクリニックを目指す」をクリニックの運営理念に掲げ薄毛に悩む患者様と日々真摯に向き合っており、女性の抜け毛や薄毛の悩みについても治療をお受けしております。