古くからお酒は「百薬の長」としても考えられており、ストレスの発散や睡眠効果を高める点でも注目されてきました。しかし一方で、飲酒をしてアルコールを摂取することで薄毛になる、抜け毛が増えるといった噂もインターネットで良く見かけるようになり皆さんも一度は耳にしたこともあるかもしれません。そこで、今回は医学的な見地から飲酒と薄毛の関係性の真偽や、アルコールがAGAの進行に影響するのかなどを解説いたします。
目次
お酒を飲むと薄毛になるの真偽
まず結論から申し上げますと、飲酒をすることと薄毛になる、またはAGAを発症するといった直接的な要因はありません。
ただ、ケースとして飲酒量が非常に多い方や、そもそもお酒の分解量が少ない方(お酒が極端に弱い方)は、お酒に含まれるアルコールが薄毛を引き起こす可能性はあります。
しかし、一般的な飲酒量、そして平均的なお酒の強さの方であれば、重ねてにはなりますが、飲酒により薄毛になる、またはAGAを発症するといった直接的な要因はありません。関係があるのは飲酒量、お酒の分解量などが極端に平均と差異がある場合です。
お酒が薄毛の遠因になるケース
まず、お酒が薄毛の遠因になるケースを説明する前に、人がアルコールを摂取した際にど様な体の変化が起こっているかを解説します。
- 食欲増進:胃の動き(蠕動※1運動)を刺激し、食事への欲が高まる
- 血管拡張:顔が赤くなるのは、血管が拡張されて血の巡りが良くなるから
- リラックス効果:合理的で分析的な思考をすることを司る大脳新皮質※2の働きを鈍くさせる
- アミノ酸不足:アルコールを分解するのにアミノ酸が使われる
- DHT増量:分解してできたアセトアルデヒドがDHへと変換する
- 糖質を取りすぎる:味の濃いおつまみなどで糖質や脂質の摂取量が増える
- 睡眠の質が低下:アルコールが抜ける反動で眠りが浅くなる
※1 蠕動(ぜんどう):身をくねらせてうごめき進むこと。 転じて、一般的に、物がうごめくこと。
※2 大脳新皮質(だいのうしんひしつ):「理性の座」ともいわれる
上記1~3は、少量~適量のお酒を摂取することで得られる変化です。一方で4~7番目は、お酒を大量に摂取したことで起きる体内変化で、薄毛に関係していると言われる理由でもあります。
ケース1:アミノ酸不足で毛髪の成長が妨げられる
お酒に含まれるアルコールは、飲酒によって体内に取り込まれ、胃や腸で吸収された後は肝臓で分解されます。肝臓は、小腸で吸収されたアミノ酸から髪の毛の元にもなるタンパク質を合成する役割があります。アルコールが肝臓で分解されると悪酔いや頭痛、動機の原因にもなる「アセトアルデヒド」という物質になり、酢酸へと分解した後血液によって全身へめぐります。体内を循環することで水と二酸化炭素に分解され、汗や尿、呼気に含まれて体外へ排出します。
アセトアルデヒドが分解する過程で作られるNADH(脱水素酵素の補酵素の一種)をアラニンやグルタミンなどのアミノ酸が消費するため、肝臓での分解反応をサポートしてくれます。そのため本来であれば髪の毛にも回ってくるはずだったアミノ酸が、NADHの分解に使われてしまうと、毛髪にとってアミノ酸不足になってしまいます。
アルコールを嗜む程度の人よりも、お酒をよく飲む方の方がアミノ酸が不足することでタンパク質が合成されず、毛髪が成長しにくい環境になる可能性があります。
ケース2:糖質や塩分の摂りすぎによる血行不良
お酒に欠かせないおつまみですが、お酒を飲むことで血中のナトリウムが薄まるため、脳は水分を排出させるよう指示し、ナトリウム濃度を上げるため塩辛いものを食べたい欲がでます。そのため、おつまみにはナトリウムを摂取できるために塩分を多くしている場合もあります。
さらにビールをはじめ、ワインや日本酒は糖質が多いお酒に分類されているので、おつまみの塩分と合わせると、糖質や塩分過多で中性脂肪が増えて血液の循環が悪くなります。血液循環が悪いと、頭皮への栄養も運ばれにくくなり、毛髪が成長しにくくなります。
ケース3:睡眠不足になる
飲酒することで眠りに入りやすい人も多いでしょう。しかし眠りに入りやすくはなりますが、アルコールを分解するときに生成されるアルデヒドには、深い眠りのレム睡眠を阻害することがわかっており、眠りが浅くなるノンレム睡眠を長く続けるようになってしまいます。
睡眠中には、髪の毛の成長に関係している「成長因子」というタンパク質が、入眠後1~2時間ごろに分泌され、4~5時間かけて全身にいきわたるといわれています。そのため、アルコール摂取によって眠りの浅い状態が続くと、成長因子の分泌に悪影響を及ぼす可能性が高いです。成長因子の分泌が少ないと、毛髪の成長にも影響が出てきてしまうため、毎日6~7時間以上の睡眠時間を確保しましょう。
ケース4:男性ホルモンの分泌量の増加
医学的には飲酒をすることで男性ホルモンであるテストステロンの分泌量が増加することが知られています。男性の体重と同量、もしくはそれ以下のアルコールを急性あるいは慢性に摂取すると、テストステロン値が変化がない、もしくは増加を示したという研究結果がありました。
AGAの原因であるDHTはテストステロンが酵素により変換された物質である為、このテストステロンの増加がAGAの遠因(間接的な原因)になるという可能性は否定できません。なお、DHTは毛髪の成長を司る毛乳頭細胞内にあるホルモンレセプターと結合すると、髪が抜けるように指令を出す「脱毛因子TGF-β」が増加することでヘアサイクルを乱し、AGA(男性型脱毛症)になってしまいます。
AGAについて詳しくはこちらをご覧ください。
関連: AGAとは?メカニズムや原因と治療法
しかし一方で、最近の他の研究では男性ホルモンは大量に飲酒をすると男性の場合減少するという研究もあり、同研究内で逆に女性の場合は増えたデータが発表されました。
※参考:飲酒は筋肉を破壊する? Rikupedia −陸上競技の理論と実際−
※参考:Inhibition of testosterone synthesis by ethanol and acetaldehyde
この様な状況を鑑みた場合、お酒を飲むことでAGAの進行に関係があるのかという点においては明確になっていません。
AGA治療中は飲酒しない方が良いのか?
一般的にはアルコールを摂取することでテストステロン値が増え、それが転じてジヒドロテストステロンが増えると言われていると伝えましたが、それによりAGA治療薬の効果に影響が出るわけではありません。
ジヒドロテストステロンは、テストステロンが5αリダクターゼという還元酵素と結びつくことで変換されます。AGA治療薬で用いられるフィナステリドまたはデュタステリドは、テストステロンと結びつく5αリダクターゼという還元酵素を阻害する作用があります。その治療薬の作用が飲酒によって効果が変化するといったことはありません。
フィナステリドについて詳しくはこちらをご覧ください。
デュタステリドについて詳しくはこちらをご覧ください。
ただし、身体や睡眠の質などのことを考えてあくまで飲酒は適量までとし、可能な範囲で控えると良いでしょう。
ミノキシジルとお酒の同時摂取は控えましょう
AGA治療薬のミノキシジルには外用薬と内服薬の2種類のタイプがありますが、どちらも血管拡張の作用があることが確認されています。
アルコールとミノキシジルはどちらも血管拡張をして血圧を下げる働きがあるため、同時摂取によって必要以上に血圧が低下する恐れがある為、ミノキシジルとお酒の同時摂取は非常に体への負担が大きくリスクが高いので絶対に控えてください。
ミノキシジルの外用薬について詳しくはこちらをご覧ください。
さらにミノキシジルの内服薬の場合は、薬の成分とアルコールはどちらも肝臓で分解と代謝が行われるため、肝臓の負担が大きくなります。ミノキシジルの内服薬を服用する際に飲酒の予定がある場合は、朝にミノキシジルを服用し、飲酒する時間との間隔を開けるようにしましょう。
ミノキシジルの内服薬について詳しくはこちらをご覧ください。
関連: ミノキシジル内服薬の効果や副作用について
アルコールと薄毛は関係ないが飲みすぎは注意
一般的な飲酒量であればお酒と薄毛は基本的には関係ないので、基本的に抜け毛や薄毛を気にして、敢えてお酒を控えるなどの必要はありませんが、過度は飲酒や常に体内にアルコールが残る様な飲み方、またお酒の分解量が少ない方(お酒が極端に弱い方)は注意が必要です。
飲酒によってもたらされる睡眠の質の低下や、毛髪の生成をサポートするアミノ酸の欠乏によって、毛髪の成長を妨げてしまう状況になることは事実ですので、過剰に摂取したり毎日飲酒をしたりすることは控えると良いでしょう。