薄毛で悩む女性の中には、子供の出産後に抜け毛が急激に増えてしまい、お風呂の排水溝に溜まった抜け毛を見て驚かれる方も多です。出産後に起こる急激な脱毛は「分娩後脱毛症」または「産後脱毛症」なと言われており、子供の出産によって増えていた女性ホルモンが出産が終わったことで分泌量が通常時に戻り、急激な脱毛が起こることが原因です。
時間の経過とともに抜け毛の量も落ち着いてはきますが、子供の出産後の不安定な精神状態に追い打ちをかけるかのような脱毛量に、「自分はこのまま薄毛になってしまうのではないか」と懸念される方もいらっしゃいます。今回は、出産後に抜け毛が多くなることのメカニズムや、産後脱毛の対処方法をご紹介します。
目次
産後脱毛(分娩後脱毛症)の原因
通常時は女性ホルモンは卵巣から分泌されていますが、妊娠をすることで胎盤からも女性ホルモンを分泌するようになります。女性ホルモンにはエストロゲン(卵胞ホルモン)とプロゲステロン(黄体ホルモン)の2種類があり、妊娠28~32週間後になるとエストロゲンは約100倍、プロゲステロンは約15倍あると言われており、女性ホルモンの分泌量は非妊時と比較しても大量に分泌されているのがわかります。これにより髪の毛が抜けにくい状態になります。
しかし、子供の出産後はそれぞれのホルモン量は一気に激減し、非妊時と同量にまで落ち込みます。妊娠時に減っていた抜け毛が出産後の女性ホルモン量の急激により一気に抜け落ちる為、大量の抜け毛が発生します。
産後脱毛(分娩後脱毛症)のメカニズム
ではなぜ、女性ホルモンが増えたり減ったりすると毛髪が脱毛するのでしょうか。エストロゲンにはそれぞれ3つの物質があります。
- E1(エストロン)
- E2(エストラジオール)
- E3(エストリオール)
特にE2(エストラジオール)はエストロゲンの中でも活性が強く、妊娠に備え子宮内膜の細胞を増殖させて厚くさせたり、細胞の分裂を促したりする作用があります。細胞を分裂させる作用によって、筋肉や骨を生成するサポートをし、毛髪においてのヘアサイクルの成長期の期間を延長させるため、毛髪が抜けにくい状態にすることが分かっています。
エストロゲンとヘアサイクル
ヘアサイクルは「毛の生涯」とも言われており、髪の毛1本が成長し脱毛するまでの循環のことを指します。毛髪は生えたら生えっぱなしというわけではなく、成長と脱毛を繰り返します。
2~6年程度の成長期で毛髪は細胞分裂を繰り返して伸び続け、成長が緩やかになる退行期を経て、休止期で成長を止めて脱毛の準備を開始します。今ある毛髪を下から押し上げるような形で新しい毛髪が成長していき、新しい毛髪の成長期が巡るのです。
妊娠でエストロゲンのレベルが高くなると、細胞分裂が盛んになりヘアサイクルの成長期で行われている細胞分裂のサポートを行うため、成長期の期間が延長されます。
ヘアサイクルについて詳しくはこちらをご覧ください。
その為、妊娠最中には抜け毛がほとんどなく、むしろ髪の毛の艶が出てきたと思っているところ、産後にエストロゲンの量が減少することで髪の毛のハリ艶もなくなり抜け毛も一気に増える現象が産後脱毛(分娩後脱毛症)のメカニズムです。
なお、このヘアサイクルを見てもわかるように、ヒトの毛髪は必ず脱毛します。子供の出産を経験していない人でも1日に100本前後の髪の毛が脱毛しますし、新しい髪の毛が生えるのが自然です。産後脱毛(分娩後脱毛症)で抜け毛に過敏になって、自然脱毛した抜け毛に悩んでストレスにならないようにしましょう。
特に髪の毛が長い場合、ショートヘアの方に比べて髪の毛が脱毛すると、抜けた量が多いように感じてしまいがちです。乳児を育てるにあたり、髪の毛が長いと束ねる手間や、乳児の口や目に入る危険性も考慮し、ヘアスタイルを変えてみるのも、抜け毛を気にしない工夫の一つでしょう。
産後脱毛(分娩後脱毛症)は一時的な症状
分娩後は急激にエストロゲンが、非妊時のころまで元に戻るため、延長されていた成長期中の毛髪が一気に休止期へ移行して脱毛してしまうのが産後脱毛のメカニズムです。
FAGA(女性男性型脱毛症)のように毛髪を支えている器官の毛包を収縮させてしまうようなことにはなりませんので、脱毛した毛髪の下には、新しい毛髪が準備を開始しています。頭皮の環境が悪くなければ、そのまま正常に成長をしていくため、抜け毛も気にならなくなるでしょう。産後の一時的な女性ホルモンの激減による脱毛ですので、自然と元に戻るので安心してください。
産後脱毛はいつからいつまで?
産後脱毛(分娩後脱毛症)は子供の出産を経験した女性の8割以上が起こるといわれています。「経過とともに自然に戻る」とはいえ、いつ頃から脱毛が始まりいつまで続くのか、不安に思う方も多いでしょう。
産後脱毛の開始は、個人差に寄りますが多くの方が出産から2~3ヶ月後から抜け毛の量を気にし始めます。これはエストロゲンによって延長された成長期中の毛髪が、退行期と休止期を経て脱毛期を迎えているためです。この退行期の期間は約2週間、休止期は3ヶ月程度と言われています。そのため、産後すぐに脱毛するのではなく、退行期と休止期を経て脱毛しているので2~3ヶ月経った後に脱毛するのです。
髪の毛の伸びる速度は1ヶ月に1cmと考えられていますので、ヘアスタイルなどで感じ方が変わると思いますが、子供の出産から約半年から1年程度で抜け毛が収まったと感じるようになるでしょう。
女性ホルモン以外でも抜け毛の量が増える
産後脱毛(分娩後脱毛症)は、妊娠時に増えた女性ホルモンが分娩後に減少することで起きる脱毛症ですが、女性ホルモンのバランスが崩れるのは妊娠・出産だけではありません。
近年ではダイエットブームが続いていることや、出産後に体形が変化したため妊娠前の状態に戻そうとして、無理な食事制限によって体重を落とす過度なダイエットや、それによるストレスによって薄毛に悩む女性が多いです。
また乳児の夜泣きや食事を与えるために十分な睡眠を摂れているとは言えない環境も、女性ホルモンが乱れる原因になりえるでしょう。
出産後に抜け毛が増えやすい状態:睡眠不足
出産は女性の身体に大きな負担をかける上に、万全な状態に回復しないまま育児を開始しなければなりません。体内時計が未熟なため乳児は昼と夜の区別をつけられませんので、夜中に目を覚まして食事を与えるなど、生活が急変します。十分な睡眠が取れないと、睡眠中に分泌される成長ホルモンや成長因子が、髪の毛を十分に成長させてくれずに脱毛してしまうなど、抜け毛量が増えやすくなったり、切れ毛や枝毛量が増えたりする環境です。
出産後に抜け毛が増えやすい状態:栄養不足
特に母乳育児をされている方は、母乳によってタンパク質や成長因子、ビタミンやミネラルなどの成分が新生児に与えられます。そのため母体は出ていく母乳分以上に、それらの栄養が必要になります。
母体の食事が母乳に影響がないからと言って、産後ダイエットで食事制限をする方ほど髪質が低下したり抜け毛が増えたりするため、注意が必要です。
産後脱毛(分娩後脱毛症)の対策について
産後の女性ホルモンの減少による脱毛を対処する方法は、「規則正しい生活を送ること」に限ります。育毛剤やサプリメントで産後脱毛を数週間で終わらせることや、毛髪の成長スピードをあげるなどは難しいでしょう。脱毛後、頭皮下で成長し始めた毛髪を正常に成長させることが重要ですので、睡眠時間の確保や栄養をしっかり摂るなどを心がけましょう。
とはいえ、育児をするにあたり睡眠時間が変則的になってしまう、栄養が偏るなどのことは仕方のないことです。乳児が寝たら一緒に睡眠をしたり、ビタミン剤などでサポートしたりなど工夫をしてみてください。また、頭皮を清潔に保つように心がけることも重要です。洗髪を疎かにして頭皮の環境が悪くなれば、毛髪が正常に成長できなくなってしまうだけでなく、脂漏性皮膚炎などの発症するリスクが高まります。
シャンプー剤をアミノ酸または石鹸素地のものに変更したり、頭皮マッサージをするなども、頭皮環境を整えるには効果的です。産後の脱毛量が多くなる分娩後脱毛症は、時間の経過とともに自然に改善してはいきますが、抜け毛の量が多いと不安に思ってしまうと思います。女性の薄毛の大半の原因は、女性ホルモンのバランスが崩れることで起こるものが多いです。ストレスなどで簡単にバランスが崩れてしまう繊細なホルモンバランスですので、医師に相談して心の負担が減るのであれば、一度かかりつけの産婦人科や薄毛治療のクリニックに相談してみると良いかもしれません。