脱毛症にはAGA(エージーエー)のように、男性ホルモンが体内で脱毛シグナルを発する物質に変換される症状もあれば、体内の自己免疫機能が毛髪を誤って攻撃し脱毛してしまう症状などその原因は様々です。
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しかし、その脱毛症の中には、自分で自分の髪を抜いてしまう症状があります。それが、抜毛症(ばつもうしょう)と呼ばれ、抜毛癖(ばつもうへき)あるいはトリコチロマニアとも呼ばれる強迫症の一種であり、精神障害による病気です。今回は抜毛症がどんな病気で治療法に何があるのか、AGAとの違いなどを解説していきます。
目次
抜毛症(トリコチロマニア)とは
トリコチロマニアは幼少~思春期に見られる瘢痕や皮膚病変を伴わない脱毛斑であり、人為的に、自分の毛を引きぬくために発症する為抜毛症とも言われます。
「毛を抜きたい」という症状が抑えきれず、毛髪やまつ毛を目立つ程自分で抜いてしまう病気です。毛髪やまつ毛を抜く前には緊張感が高まっている状態で、抜いていると解放感や快感、抜毛する前に感じていたストレスが和らぐと言われています。大人だけではなく、子どもにも起こりえる病気です。その場合は解放感や快感を得るためというより、癖のように意識せずに抜いている場合もあります。
子どもが発症し、そのまま大人になってもその癖をやめられなかったり、他の精神病を併発していたりする場合は注意が必要です。毛を抜く行為(抜毛)を繰り返すことで目立つほど脱毛したように見えてしまい、抜いた毛を食べる(食毛)行為も行うようになってしまいます。しかし発症している当人にその認識はなく、無意識で行っているの可能性も多いです。
このように自分で認識しながら抜毛しているパターンと、本人の無意識のうちに行っている抜毛しているパターンがみられ、症状の重度は変動し、生涯繰り返すこともあります。
抜毛は全身に及ぶこともあります
抜毛症を発症すると、通常は頭皮や眉毛、まぶたの毛が抜毛されますが、全身のあらゆる体毛が抜毛の対象になりえるのです。どこをどの量だけ抜毛するかは人によって異なり、毛が薄くなるだけの人もいれば、完全になくなってしまう人もいらっしゃいます。また、時間が経つにつれて抜毛箇所が変わる場合もあります。
抜毛症(トリコチロマニア)発症の9割が女性
抜毛症は思春期の直前、または直後に発症するのが典型的で、発症率は1~2%と言われていますが、その9割の発症が女性です。抜毛症は強迫症の一種であり、発症の多くは女性ですが、強迫症のように自分の見た目を気にするから抜毛しているわけではありません。
強迫症とは、日常生活に支障が出るほどある物事にとらわれてしまう精神疾患です。例えば戸締りを何度も確認せずにはいられないなどの行為や、美容外科でお金をつぎ込むほど自分を醜いと感じてしまうことを指しています。
なお、強迫性障害とは自分でもつまらないことだとわかっていても、そのことが頭から離れず、わかっていながら何度も同じ確認などを繰り返すなど、日常生活にも影響が出てきます。意志に反して頭に浮かんでしまって払いのけられない考えを強迫観念、ある行為をしないでいられないことを強迫行為といいます。たとえば、不潔に思い過剰に手を洗う、戸締りなどを何度も確認せずにはいられないなどがあります。
抜毛による食毛の危険性
抜毛した毛を指で遊んでみたり、毛の房を甘噛みしたりしているうちに、多くの患者さんが毛を飲み込んでしまいます。飲み込んだ毛は胃や消化管などで動かなくなることがあり、毛の塊になって上手く症かされなくなってしまい、大変危険です。
飲み込んだ毛髪が胃液や胃粘液によって固く凝集し、毛髪胃石になって胃から排出されなくなると、すぐに満腹感を覚えるようになったり、吐き気・嘔吐・痛みなどの消化器症状が起きたりする場合があります。
毛髪胃石による合併症の例
抜毛による食毛で経口摂取した毛髪が胃液や粘液により固形化し塊になった物を毛髪胃石といい下記の様な合併症を引き起こす場合があります。なお、いずれも、毛髪に限らず胃石によって引き起こされる場合があります。その場合は鉗子(かんし)やレーザーを使って胃石を細かく砕く治療方法が一般的です。
胃穿孔
胃の出口のことである幽門部が、毛髪遺跡によって狭まり(狭窄きょうさく)食べたものや胃液等が十二指腸へ流れない症状。
幽門狭窄症
まれに胃石は消化器の穿孔(穴をあけること)を引き起こすことがあり、食べ物や消化液や便などが腹腔に漏れ出す症状。
抜毛症(トリコチロマニア)の人は他の反復行動を行う
抜毛症の人の多くは、皮膚をむしる行為を繰り返したり爪を噛んだりなど、身体に関する反復行為があります。抜毛した箇所を隠すために、別の部分から毛を引き抜くこともままあるようです。しかし自分の変貌した外見や、抜毛行為の自制ができない自分に戸惑いが隠せず、脱毛した箇所をかつらやスカーフで隠そうとする人もみられます。自らの頭髪を抜く以外にも他に顕著な行動としては、
- 他の人やペットの毛を引き抜く
- 衣服や毛布などから糸を引き抜く
- 爪や頬の内側を噛む
- 繰り返し皮膚をむしる
などの行為がみられますが、典型的なのは家族以外の人前では毛を抜く行為をしないことでしょう。
抜毛症(トリコチロマニア)は自力での改善は難しい場合が多い
抜毛症の患者さんは、好きで抜毛行為を繰り返しているわけではありません。ご自身の外見が変化するほど自制できないことに困惑されたり、恥じたりする方が多く、抜毛行為をやめようとトライしてみる人が大半です。
しかし残念ながら、行為をやめることや頻度を減らそうと試みても、成功する確率はあまり高くありません。そのため、重症度は変動しますが、症状が生涯続くことの方が多いです。医師によるカウンセリングや治療によって症状が軽減することもありますので、医療機関に相談してみましょう。
抜毛症(トリコチロマニア)の治療方法
医療機関での抜毛症の治療には主に「習慣逆転法」「内服薬」が考えられます。
習慣逆転法
抜毛症において最もよく用いられる治療法は認知行動療法です。認知行動療法tとは患者が動揺した時などの時、脳内でどんなことを考えているのか(自動思考)が、現実とどの程度食い違っているのかを検証し、思考のバランスを整える療法です。その中でも、習慣逆転法と呼ばれる療法が有効とされています。習慣逆転法は抜毛症だけではなく「皮膚むしり症」や「チック症」などに有効性が認められている治療法です。習慣逆転法には以下の4つの段階で行われます。
1:意識下練習
このトレーニングの目標は、止めたい習慣(抜毛行為など)を患者さん自信が意識することです。抜毛行為だけにとどまらず、この治療で直したい習慣というのは、患者さん自身では気が付いていないケースも多く、まずはその行為をしていることを意識させます。その行為がある毎に家族や治療を行う人が指摘することで、徐々に患者さん本人がその習慣をする時に気が付くようになるのです。抜毛行為をすることに意識できたら、その行為を引き起こすのはどんな状況なのかを分析するため、その前触れなどを記録していきます。
2:拮抗反応の学習
意識下練習によって、抜毛行為がある程度意識できるようになったら、抜毛などの行為の代わりになる新しい習慣を身に着ける運動を開始します。これは、抜毛を行いたいという気持ちになった時に、それを身体的に妨げるような習慣であることが必須条件です。抜毛症であれば、手や指を使えなくなるような「こぶしを作る」、「編み物をする」、「手の上に座る」などが一般的です。
3:偶然性の管理と汎化練習
腹式呼吸などでリラックスすることです。腹式呼吸を行うことで、リラックスしている時に作用する副交感神経が活発に働き、気分が落ち着きます。
4:拮抗反応の学習
偶然性の管理は拮抗反応の学習で身に着けた、抜毛行為に変わる新しい習慣を完全に自分の習慣にさせるため、何かしらの褒美を与えてその行為を継続させることです。汎化練習は抜毛をしたいという衝動がいつ起きるのか、意識下練習の際に記録していたものを参考にしながら、その衝動が起きるケースを想定し、抜毛しないイメージトレーニングを行います。
この管理と練習に関しては、省略される場合もあります。
内服薬による治療
抜毛症の患者さんには抑うつ症状もみられることから、抗うつ薬が有効とされています。
- 選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)
- クロミプラミン
こちらの二つは、抗うつ薬として有名な治療薬で、抑うつ状態や不安の症状がみられる方に有効とされています。
抜毛症のチェック方法
なお、抜毛症(トリコチロマニア)の鑑別は一般的にトリコスコピー等を用いて行います。トリコスコピーとはダーモスコープを当てて毛の状態を確認することです。AGAやその他の脱毛症は自然に頭髪が抜ける為に、抜け毛に割かれた様な断面は見られませんが、抜毛症(トリコチロマニア)は物理的に髪の毛を引きちぎる為、脱毛箇所には物理的に切断されたようあん断裂毛、いわゆる切れ毛が見られます。
抜毛症とAGAとの違いや症状の比較
薄毛の大半の原因がAGA(男性型脱毛症)と言われており、日本人成人男性の3人に1人は発症する身近な疾患です。AGAを発症すると、まず抜け毛が多くなりますが、大抵の方は初期の段階では気が付きません。抜け毛が増えたことにより、頭皮が透けて見えるようになってきてようやく薄毛というキーワードが頭をかすめるのでしょう。
症状としても、抜け毛が増えることと、頭頂部と前頭部が特徴的に脱毛すること以外、身体に影響がありません。風邪をひかないような健康な人でも起きる可能性のある疾患です。
一方で抜毛症の原因は、多くの場合が精神ストレスと言われています。抜毛症は患者本人が毛を抜いているため、毛髪だけ毛を抜いている方もいらっしゃれば、眉毛まつ毛などの全身の毛を抜いてしまうような方もいらっしゃるのです。無意識で行ている場合、「抜け毛が増えたわけでもないのに頭皮が透けて見える」と思い、薄毛治療専門のクリニックにいらっしゃいます。
しかし抜毛症は「毛を抜くことが癖」になっているため、その癖を直していくことが重要です。抜毛症は精神科や心療内科によって治療が可能です。AGA治療は、男性ホルモンが体内で変換して、毛髪へ脱毛指令が出されることで脱毛するので、フィナステリドでそれを阻害し、ミノキシジルで発毛を促します。内服薬治療によって効果が実感されない時に用いられるメソセラピーや、内服薬治療では改善が難しいほどAGAが進行してしまった時に選択される植毛など、AGA治療には様々な治療法で薄毛の改善が可能です。
最大の相違点と言えば、抜毛症はご自身で毛髪を抜いているので、抜く行為をやめたら復活する可能性があります。しかしAGAは治療をしていない限り毛髪は抜け続けてしまうのです。どちらも治療を開始しないことには脱毛が改善しないという部分が似通っていますので、医療機関に相談してみてください。
銀座総合美容クリニックでは「常に患者さん目線でのクリニック運営」「患者満足度のより高いAGAクリニックを目指す」をクリニックの運営理念に掲げ薄毛に悩む患者様と日々真摯に向き合っており、無料カウンセリングを対面・オンラインともに常時承っております。